始発で淀へ行った奴の話によれば、「阿呆みたいな人、ラウンジ無理」とのことであったので、一眠りして行こうなんて友人とは計画していたが、「今行かないと、モニターの前で見ることになるかも」なんて恐い事を友人が言うので、寝ずに8時半に家を出たら、駅にはあきらかにお前ら競馬行くだろうと判る競馬ブックとスポーツ新聞を所持した集団を数組見たので、早く出たのは正解であったのかなあと思いながらも電車に揺られる。競馬場についてみれば、ラウンジがいいなあなんて思っていたが、そんなのは一瞬で諦めた。人だらけ。もう最終レース前かと時計を確認しても9時であった。一レースから人が阿呆のように居て、とりあえず飯でも食っとこうと吉牛に並ぶも、小学校の時社会の教科書で見たオイルショックのような長蛇の列だった。これが天春や金杯の最終レースの前ならまだ理解できるのだが何故に9時時点でこんなに人が多いのか。しばらくして途中入場者の発表があったが、6万人を超えていた。僕が生まれ育った村の親族郎党皆足しても6万人は無理であろう。皆、ディープインパクトを見に来てるのです。とはやくも少し感動する。
そんな下調べもしてきてないので最初のレース馬券は買わずにとりあえず寝よう。もう丸一日寝てないと友人と合意したが、当然ながら場所は無い。外の観客席は、人か或いは場所取り用の新聞で埋め尽くされており、ベンチはひとつも無かった。競馬場の中も壁に寄りかかれる場所などのめぼしい場所には当然人が居て、しょうがないから中庭のベンチで二人仲良くそろって眠るが、雨よけの屋根を持たないベンチであるので、朝から降り続いていた霧雨にそろって濡れて寒い寒いと言うも雨は止まず。秋の次には冬が来ると思い出しながら眠りにつく。
空模様と体温と相談しながら屋内に入ったり、ベンチで寝たりしていたが、京都8レースが始まるとのことなので、このあたりから馬券を買いだす。11レースの記念馬券も忘れず買っておく。友人は「ディープ単勝100円を何枚も勝って知り合いに5倍で売りつける。これで普通なら1.1倍が5倍の馬券や」と騒いでいたが、本当に売れるのだろうか。まあどうでもいい。適当に買って適当に外れて京都8レースが終わる。そしてもうパドック見るのは諦めて先に馬券を買って前の方で見ようと友人と合意に達する。早く来たとはいえないけれど、それでも8時に家をでたのだから前の方で観たい。モニターでレースを見たなんて悲しすぎるのでそそくさと馬券を買って前の方の芝生にスペースを見つけて座る。これで安心。朝からの霧雨も上がって西の方の雲の隙間からは夕日が見える。ヘリコプターも2台ぐらい確認できて、良い雰囲気である。舞台は整った。
とはいえどもまだまだ時間はあるので友人と適当に談笑。競馬の話は周りには僕たちよりも含蓄ある人々で埋め尽くされていたので、自分の競馬史を遡っても4年の僕たちは恥ずかしいのでしなかった。天橋立の話をする。天橋立の周りにはバイトできる場所といったらマクドナルド一つと漁港しかないので、あたりの女子高生はマクドナルドでバイトしようと殺到し、マクドナルド側は選びに選んだ可愛い子を店頭に立たせて、日本三景の一つ天橋立の近くのマクドナルドは天国であるという本当か嘘かわかんない話を聞き、「ならメインレースあたったら天橋立でも行こうか」なんて言う。そしたら10レースが終わり、アナウンス。入場者数が13万6千人です。とのこと。そりゃそうだ。と思っていたら恐ろしいアナウンスが続く。「7番単勝1.0倍」
馬券を取り出して見直す。単勝7番ディープインパクト30000円。ディープ一頭を応援する為にこのような馬券を買ったのだけれど(友人には阿呆と言われた)意味ないじゃん。元金払い戻しじゃあないですか。弥生、皐月、ダービー、神戸新聞杯と見てきたけれど結局は1.1倍に落ち着いたのにこれは酷い。まあ3000円くらいだからぶつぶつ言うのも大人気ない。友人には「だから阿呆馬券いうたやん」と怒られたが、まあ儲けるために来たのじゃあありません。と言い訳。モニターに武豊やディープが写るたびに歓声が沸く。僕も競馬ブックと手をひたすら叩く。
本場場入場して、お決まりのファンファーレが鳴り響いて、手拍子打って、とうとう出走。
ディープは上々のスタート。スタートでこけない限り勝つだろうと思っていたので、安心するも、一週目にこっちに来た時「なんかかかってねえ」と友人が言う。僕もそう思ってたけれど、もうどうしようもない。周りのおっさんもかかってるかかってるとうるさい。ようやく落ち着いたように見えて一安心する。3000はやっぱり長い。寒い所為かもしれないが、足が少し震えた。
向こう正面では2頭が結構逃げている。シャドウゲイトが逃げるのは予想ついたがディープなら差せると予想してた。2番手に付けているのはアドマイヤジャパンアドマイヤジャパンは天秋に行くのだろうと思っていた馬なので3000走れないだろうと思い。ああ、これで大丈夫。と思ったが、まだ逃げる。4コーナーまわってもまだ逃げる。シャドウゲイトは失速するも按上横典のアドマイヤジャパンはまだ逃げて、やっと僕の正面に来たぐらいで差しきった。1.5馬身差ぐらいだろうか。別段ドラマのごとくスローモーションになることもなく、無音になることもなく、現実のディープインパクトは歓声に包まれながらゴール。一安心である。拍手と歓声。モニターに映る『無敗の3冠おめでとう』。おきまりのユタカコール。僕と友人も向き合って、一言。「横典こえー」もう少し違う台詞があったと思うが、言ったもんはしょうがない。そんなこんなで菊花賞は終わった。まあ良いもん観たなあ。とは思う。いつもの圧倒的なディープインパクトじゃあ無かったが、いつものように勝った。馬券換えるの時間かかりそうだったから、表彰式も見てた。うん。良かった。他人事ながら安心。空の飛行船まで『祝三冠』
帰りの満員電車に揺られながら思うことは、僕が何故菊花賞を見に行ったのかよくわからない。馬券的に美味しいわけでもなく、僕がよく口にする「奇跡が観たい」というのにしろ、菊花賞という短いスパンで見ればディープの勝利は奇跡でもなんでもなかった。でもやっぱり、凄えと感じたものの歴史に、脇役ながら参加したかったんだと思う。未だ同世代の人がやるライブで片腕上げて観客化するのには抵抗があるけれど、ディープインパクトなんていう凄え馬の歴史に、観客として参加したかったのかなあと思う。よくわからん。
ともかく無事三冠は達成されたようで。次はジャパンカップか有馬かはわからないけれどロブロイとの対決になる。観客は馬券を買って拍手しとけばいいのだろう。そうしようとも思うが、阿呆のように応援するだけだと負ける。とも思う。まあとにかく、菊は良い結果で終わった。競馬の後は飲み屋で飲んで、また明日からがんばりましょう。