生活、というものをしたかったのかもしれない。ちょうど一年前の今頃に前の研究室の先輩である沢木さんに貰ったぬか床は3週間くらいはそれ本来の役目をきちんと果たして、僕においしいと言わせるだけの仕事はしていたのだが、僕の生まれ持った性分である面倒臭がりというやつに負けて、ぬか床は小バエのおうちと成り果てた。

部屋に居るときに、気が付けば2,3匹小バエが居るってな状態になってしまった我が部屋だけれども、田舎育ちの僕であるので、そんなに気にもしなかったし、上手い具合に酒が入った夜なんかは「俺の友達はお前らだけだよ」なんて阿呆なことを抜かしていた。アンパンで顔ができた奴でさえ愛と勇気が友達なのに俺の友達は小バエだけ、なんて自嘲気味にこぼしつつ。「家賃払えよ、5千でいいから」なんて言っちゃったりもしたのかどうだか。気持ち悪い?ああ、そんなもんですよ、僕は。

そんなこんなで上手い事共同生活は行ってるかに見えたんだけれど、だいたいこういう友情ってやつをぶちこわすのは女って相場が決まってる。バイト先の少しばかり気になる女の子が部屋に来るってなった時、今までの共同生活はキンチョールで一蹴、そう、一蹴されて、哀れ小バエは死んじゃって、死骸さえも確認できねえ。臭いぬか床は生ゴミに。

ああ、それが当然です。当然だよな。でもこんなのを望んじゃあいなかった。確かにうっとうしかったし数が増えたら駆除はしてたんだけれど。

まあ小バエごときでそんなに悩みなさんなと人は言うでしょう。ただ、小バエは現実として存在していたんです。 3秒に1人死んでいくアフリカの子供ってやつだとか、テレビの中で踊る女の子や、そしてあなたなんかより、ずっと現実だった。